島崎藤村「椰子の実」

 秋が忍び足でやってきた。が、雲行きが怪しく、コロナ禍に迎えた「はじめての秋」である。
 のっぴきならない人事ゆえに、いつになく秋の風物が愛おしく感じられる。こんな時季にこそ、目を凝らし耳をそばだてて、日本の秋を歳時として受け止めたいたいと思っている。
 流浪の秋であり、望郷の秋である。

「椰子の実」
作詞:島崎藤村  作曲:大中 寅二
名も知らぬ 遠き島より
流れ寄る 椰子の実一つ
故郷の岸を 離れて
汝(なれ)はそも 波に幾月(いくつき)
旧(もと)の木は 生いや茂れる
枝はなお 影をやなせる
われもまた 渚(なぎさ)を枕
孤身(ひとりみ)の 浮寝(うきね)の旅ぞ
実をとりて 胸にあつれば
新(あらた)なり 流離(りゅうり)の憂(うれい)
海の日の 沈むを見れば
激(たぎ)り落つ 異郷の涙
思いやる 八重の汐々(しおじお)
いずれの日にか 国に帰らん

「歌詞の誕生については、柳田國男が愛知県の伊良湖岬 (いらごみさき)に滞在した際の体験が元になっている。
 1898年(明治31年)夏、東京帝国大学2年だった柳田國男は、伊良湖岬の突端で1カ月滞在していた際、海岸に流れ着いた椰子の実を見つけた。
『風の強かった翌朝は黒潮に乗って幾年月の旅の果て、椰子の実が一つ、岬の流れから日本民族の故郷は南洋諸島だと確信した。』
 柳田國男は、親友だった島崎藤村にその様子を話し伝えた。藤村はこの話にヒントを得て、椰子の実の漂泊の旅に自分が故郷を離れてさまよう憂いを重ね、歌曲『椰子の実』の詩を詠んだという。」 

以下、
です。ご参考まで。