小林秀雄「それが芸というものだ」

「小林秀雄の眼」
白洲正子『遊鬼 わが師 わが友』新潮文庫(57-58頁)
「本居宣長」について、私は失礼なことをいったのを思い出す。今度の宣長は今までの作品とは違って、きらきらしたものが一つもない。だから本を伏せてしまうと、何が書いてあったか忘れてしまう。何故(なぜ)でしょうかと尋ねると、小林さんはこう答えた。
「そういう風に読んでくれればいいのだ。それが芸というものだ」
 もうその頃には現代の読者は眼中になく、五十年か百年先の理解者を予想して書いていたのではあるまいか。それにも拘わらず、「本居宣長」は何十万部も売れて、御本人は元より、出版社を唖然(あぜん)とさせた。「では美は信用であるか。さうである」(「真贋」)と小林さんはいう。

◇ 川村次郎『いまなぜ白洲正子なのか』東京書籍 と 白洲正子『遊鬼 わが師 わが友』新潮文庫 の間には隔たりがあります。「釈然としないものが残ってい」ます。


以下、
『いまなぜ白洲正子なのか』_大野晋編
です。