小林秀雄「無私な全的な共感に出会う機会を待つ」

小林秀雄「無私な全的な共感に出会う機会を待つ」
若松英輔『叡知の詩学 小林秀雄と井筒俊彦』慶應義塾大学出版会
 幾時の間にか、誰も古典と呼んで疑わぬものとなった、豊かな表現力を持った傑作は、理解者、認識者の行う一種の冒険、実証的関係を踏み超えて来る、無私な全的な共感に出会う機会を待っているものだ。機会がどんなに希れであろうと、この機を捕えて新しく息を吹き返そうと願っているものだ。物の譬えではない。不思議な事だが、そう考えなければ、或る種の古典の驚くべき永続性を考えることはむつかしい。宣長が行ったのは、この種の冒険であった。(『本居宣長』130-131頁)