小林秀雄最後の対談「歴史について」(音声ファイル)2/2

小林秀雄最後の対談「歴史について」考える人 2013年 05月号 新潮社
「音楽の美しさに驚嘆するとは、自分の耳の能力に驚嘆する事だ、そしてそれは自分の精神の力に今更の様に驚く事だ。空想的な、不安な、偶然な日常の自我が捨てられ、音楽の必然性に応ずるもう一つの自我を信ずる様に、私達は誘われるのです。ーー「表現について」よりーー(28-29頁)

[名対談再録]「歴史について」小林秀雄 × 河上徹太郎
1979.7.23、於福田屋
『考える人 小林秀雄 最後の日々 生誕111年・没後30年記念特集  2013年春号」 新潮社
河上 そりゃあ、それでいいがね。……小林、僕この頃変になったんだ、音楽って嫌いになったよ。
小林 そうか。
河上 どういうことだろう。
小林 わかるよ。
河上 堅っ苦しくて厭(いや)なんだよ。僕、現代音楽というのが、好きになってしまった。
小林 わかるよ。わかるけれど……。
河上 いけないか……。
小林 いや……。それは年齢(とし)のせいだよ。
河上 もう、モーツァルトとか、ベートーヴェンとかが、堅っ苦しくて厭なんだ。
小林 それは、当りまえのことが起こってるんだ。君、さしみは好きだろう。ところが、年齢とってきて、この頃はさしみがちょっと生臭くなってきたっていうところがあるだろう。
河上 こいつ、なんでも先を知ってやがるから厭だ。
小林 先きも後もない、長い付き合いがわからせるものがあるんだ。ーー僕は今日、「有愁日記」を読んでいたんだよ。
河上 そりゃ、どうも。……ここへ来るまで、僕は寝ていた。
小林 話のきっかけでも見つかるかと思ってね……。だんだん読んでいたら、君が、僕の「モオツァルト」に触れているんだ。忘れていたな。ところが、まったく偶然なんだが、前の晩、新しいレコードをもらったんでね。五一五番のクィンテットを聞いていたんだ。どうも、やっぱり大したものだ、と思っていたんだ。
河上 待てよ。おれも、忘れてた。
小林 「神さまは、バッハよりもモーツァルトのほうがお好きだろう」とバルトが言った、と君は書いていたな。あれはおもしろい。
河上 ゲオン推賞のクィンテットの話となれば、もうおしまいにしてもいいな。