佐藤春夫「さんま、さんま」


車を運転しながら、「サンマ、サンマ」とサンマのことなぞ思っていると、

さんま、さんま
さんま苦いか塩つぱいか。
と、自作の詩「秋刀魚の歌」を朗読する佐藤春夫さんの特徴のある語り口を思い出しました。

2006年の春に、「紀ノ国と巡礼の旅」に、K大のP教授とごいっしょした折に、佐藤春夫記念館を訪ねました。館内には、自作の詩を朗読する佐藤春夫さんの声が流れていました。熊野速玉大社を参詣した帰りに、いきなり現れた洒脱な建物に惹かれ、是非もなくお邪魔したという格好での訪問でした。白塗りの壁と木の色調のコントラストの綺麗な建物でした。「2畳のごく小さな書斎」が設けられていました。京都・嵯峨野の向井去来の住まい「落柿舎」にも一坪ほどの小さな書斎がしつらえられていたように記憶しています。二畳の間に文机をおいて、気になる空間です。

八角塔の書斎
 外から見ると塔のようにそびえるこの部屋は、八角形をしていることから「八角塔」と呼ばれています。ここは2畳のごく小さな書斎で、春夫自身は“慵斎”(ようさい)と称していたようです。
 春夫は、狭い書斎を好み、「参考の本などすぐとれるし、片付けるのにも早いし、冬は暖かい」と自賛していたそうです。また、「芥川の書斎も狭い、傑作は狭い所から生まれるものだ」とも言ったと伝えられています。

一牀書屋
 晩年、春夫は陶芸家・河井寛次郎に“一牀書屋”(いちじょうしょおく=ごく小さな書斎を表す)の題字の揮毫を頼みました。書は、春夫の没後に届けられ、春夫は目にすることができませんでした。


「塾・ひのくるま」のHPに早速書き加えようと思っています。「K大のP教授の「暗黙のご指導とご鞭撻の旅」のつれづれ」では、まだ何か大切な忘れ物をしているような気がしてなりません。佐藤春夫記念館においても、K大のP教授の博識の一端に触れたことはもちろんのことです。